忠兵衛頬被りの巻・その1「つんつるてんの段」
今回遣っております忠兵衛、
“人目を忍ぶ頬かむり”と、
浄瑠璃の文句にもある通り、
白手拭いに顔を包んで、
大阪から、
生まれ故郷の新口村へ、
梅川と二人、落ちて参ります。

二枚目に頬被り、
風情があって、
まことに結構な物ですが、
これが、なかなか難しい。
いや、“私には”難しい。

忠兵衛以外にも、明烏の時次郎、
夏祭の清七こと磯之丞など、
舞台の上で、頬被りをする役も、
幾つか、遣わせて戴きましたが、
頬被りの出来映えには、
自分自身が、ほっかむり、
目をつぶって、やって参りました。

稽古前に小道具さんから、
白手拭いをいただく時は、
張り切っているのです。

今度こそ、粋にすっきり、
男の色気も滲ませて、
玉男師匠の治兵衛、
簑助師匠の忠兵衛、
あんな形で、こんな姿でと、
意気込んで、人形に向かうと…
これがいけない。

師匠方、兄さんたちは勿論の事、
若い人でも、上手い人なら、
あっという間に、拵え上げるのに、
こちらは、いくら捻くり回しても、
一向に出来ません。

襞が取れない、
折山がずれる、
顎に掛からず、すっぽり抜ける。
あっという間に、10分が20分。
時間のある限り、悪戦苦闘しても、
良くなる所か、事態は益々、
悪化の一途。

皺だらけの手拭いに、
何度も何度も、
アイロン掛けては、やり直し。
いつしか白木綿も、手垢に塗れて、
薄鼠。

ピンと立つ筈の、手拭いの端も、
情けなく、うな垂れています。
それならと、のりを吹きかけ、
アイロンで固めて、再挑戦。
あまり固くしない方が、
良く締まって形も良い、
という事を知らず、また何回も。
やがて薄鼠が、黄ばんできて、
なんとも奇妙な色合いに。

もうこれで良し!
と切りを付けた筈が、
ふと見ると、右が長い。
ちょっと切って、結び直すと、
今度は左が。

終いに手拭いは、つんつるてん。
恥を忍んで、もう一枚、
小道具さんに戴くと、
振り出しに戻って、
また一から、やり直し。

時間も迫って、舞台に出る頃には、
疲労困憊、戦意喪失。
手拭いも、こちらの首もうなだれて、
すっきり、きりりと二枚目の雰囲気など、
出せよう筈も、ありません。

豊松清十郎

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[2011/05/21 10:18] | なまけず一所懸命 | トラックバック(0) | page top
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