床山の高橋さんに、いろいろ聞きました。「立兵庫編」(シリーズ・いろいろ聞きました)
今回は、初の試み。
インタビュー形式で、お送りします。
ゲストは床山の、
高橋晃子さんです。
4月大阪公演で勤めた、
傾城宮城野の髪型、立兵庫(たてひょうご)に関して、
お聞きしました。



えー、まず立兵庫というアタマ(鬘の事)ですけれども、
これは文楽では、傾城がしらにしか使わないんでしょうか?

「そうですね、傾城がしらにしか使いません」

4月公演「宮城野」の立兵庫
4月公演「宮城野」の立兵庫

他に、遊女に使う髪型というと、どんな物が?

「つぶし島田ですね。おかるの様な」

それが、一般的ですか

「はい」

歌舞伎の方では、どうなんですか?
立兵庫に結った鬘というのは。

「これを結っていらっしゃる役は、
色々あります」

あ、やっぱりあるんですか。
文楽では、このかしらでしか見ない物で。

「このかしらだけです。阿古屋とか梅が枝とか、
最上級、松の位の太夫さんですね」

では歌舞伎の方では、もっと位の低い遊女でも、
立兵庫に結う役が、あるという事ですか?

「はい」

この大きく割れた、後ろの部分、
これは何と呼ぶんですか?

立兵庫の後ろ
立兵庫の後ろ

「髷です。兵庫髷と言います」

あ、それで立兵庫と言うんですか

立兵庫の上から
立兵庫の上から

立兵庫の右側面
立兵庫の右側面

「はい。これもね、
立兵庫と言ったり、
伊達兵庫と言ったり、
横兵庫だったり、
呼び方は様々なんです」

はあぁ

「歌舞伎では、伊達だったり、立だったり、
京都の、舞妓さん達を結われる床山さんは、
横兵庫と呼んだり。
でも文楽では、名越師匠から立兵庫、
とお聞きしてますので、そういう風に申し上げてます」

実際に今回、傾城がしらを持たせて戴くと、
例えば、重い事に加えて、
この兵庫髷が、後ろ襟に擦れたりして、
大変なんですよ。
だから、普通の遊女には使えませんね。
傾城がしらの様な、ゆったり動く役でないと。


高橋晃子さん
高橋晃子さん

「それでね、軽くしているんですよ。
ここ(前の所)、櫛二枚ですよね。
三枚なんですよ、本当は」

櫛は二枚です
櫛は二枚です

あ、三枚が決まりなんですか。

「決まりなんです、大盛装は。
で、ここは三本だから良いんですけど、
この簪(かんざし)、省いて一本になってます。
本来はもう一本ずつ、入んなきゃいけないんですね」

へーえ、それが定法というわけですか。

「そうですね。遣いにくいし、重たくなるでしょう、
と言う事で、簡略化しています」

歌舞伎との違いは、軽くする以外、
他にもありますか?

「飾り物が、江戸前になって来ると、違うんですよね。
この布の所、助六の揚巻だと、
金の巻き上げだろうと思うんです。
それに、これも違います」

ほーお。因みにこれは、何というんですか?

「襟擦りと言います。襟に擦れますでしょう」

襟擦です
この長い飾りが襟擦です

襟擦を近距離で
襟擦を近距離で

じゃあ、吉原の太夫さんは、少し髪型が。

「さっぱりしていて、ちょっと粋な感じです。」

それが江戸前、と言う訳ですね。

「はい。それから、ここも違うんです。
この蝶々、付いてないんです」
蝶々です
蝶々です

へぇ、僕らは見慣れて、これが無いと、
立兵庫の感じがしませんけど。

「文楽は京の島原、大阪の新町、
夕霧太夫の様な、派手な形で」

こちらは、上方風に。

「だから、あのぉ、今回は浅草の吉原が舞台なので、
ちょっとまあ、どうかなって思われないかと」

でも、文楽の舞台に、急に江戸前が出てきてもねぇ。
登場人物、みんな上方なまりですし。
お客様も、戸惑うんじゃないかな。
全て分かった上で、やっている訳ですから、
文楽は、これで良いんじゃないでしょうか。

「私も、これで良いと思っています」

もう一度
もう一度見てみましょう

こういう所、すごく興味深いですね。
で、この鬘で苦労される所と言うと、
どういう所ですか?

「そうですね、このかしらはずいぶん重い物ですから・・・」

すると、
「ちょっと計ってみましょうか」
と、人形細工人の村尾君登場。

「えーと、車曳の松王丸が750グラム。
宮城野は・・・900グラム近くありますね」

やっぱり、文楽一ヘビーな様です。

「ですから、まず軽くする事。
それと、バランスが、重要かと思うんですよ。
この根取りの所・・・」

根取りと言うのは?

「髷を結う時に、髪を集める所です。
この根取りの位置で、髷が前に行ったり、
後ろに行ったりで、多分、遣われる方の、
重さの感じも、変わって来ると思うんですよ」

見た目の美しさ、形もだけれども、
人形遣いに負担にならない様に。

「はい」

遣いやすく、と言う事を、まず第一に考えている、と。

「はい。この襟擦りも、引っ掛かるんですよね」

そうですね、(先代の)清十郎師匠が、阿古屋をやられた時なんか、
毎日の様に、プツプツ切れてました。

「あのこれね、(飾り板をつなぐ)環を変えたんです」

えっ、そうでしたか。

「曲げた輪っかの、この隙間から取れてしまうので、
隙間が開かない様に、職人さんにお願いして」

ああ、それで今回、ほとんど切れないんですね。

「あとまぁ、歌舞伎との違いと言うと、
立兵庫に限りませんが、
うちは油を、一切使えませんので」

あのぉ、私も解説などでお客様に、
文楽の床山は、水だけで結うので大変だ、
と言う様な話を、するんですが、
鬢付け油が無いと、結いにくい物ですか?

「そうですね。鬘を作る時にも、
毛の長さを揃えておかないと、
結う時に髪が、パラパラと落ちてしまうので」

油があれば、くっついてくれるんですね。

「ある程度、くっついてくれます。
それと清十郎さん、
うちは水も付けないんですよ」

ええっ?

「サラッサラでいっといて、後からヘアスプレーだけ。
結っている間は、何も付けないんです」


下ぶくれですね
下ぶくれですね

いやぁ、適当な事を言っているもんで。
ずっと嘘をついていました。

「ちょっとこれは、訂正をお願いします(笑)」

すみません(汗)。

床山さんのお部屋です
床山さんのお部屋です



何よりも、人形遣いのやりやすい様に、と心を砕き、
様々に、工夫を続けて下さっている、高橋さん。
公演中の忙しい最中、お時間を割いて戴き、

有難うございました。

この後、師匠の名越昭司さんについて、
また、後継者を育てるという立場から、今思う事など、
更にまだまだ、お聞きしています。
日を改めて、
またお伝えしたいと思います。

勿論、他の技術部、スタッフの方々にも、
インタビューを敢行し、
皆様に貴重なお話をお届けすべく、
虎視眈眈、機会を狙っています。
どうぞお楽しみに。

豊松清十郎

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[2011/05/16 16:02] | あきらめず文楽一途 | トラックバック(0) | page top
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