勘介君、息遣いに苦戦する。(ギオンコーナーのお話その9)
髪が結い上がると、
いよいよ舞台へ。
動く足を初めて持たせて貰った、
勘介君。
足の形が思うに任せぬのは、無理もありません。

お七ちゃん
コーナーのお七ちゃんです。

しかし、彼はまだ16歳。
何よりも若さが、
一番のアピールポイント。
地元藤野の中学では野球部に所属して、
炎天下の中、グラウンドで、毎日白球を
追い掛けている内に、顔は真っ黒。
楽屋の口の悪い連中に、
「勘介、お前、前も後ろも一緒やな」
と言われる程。

笑顔で奮闘中
この笑顔で、奮闘中です。

当然体力には、自信がある筈ですが、
舞台を終えて戻って来ると、
足はフラフラ、青息吐息。

前半の足を遣ってくれていた
簑紫郎君が、
汗一つかかず、涼しい顔だったのに。

その秘密は、
息遣いにあるのです。
足遣いは舞台で、自然と主遣いの、
吸う息、吐く息に、合わせて呼吸をしています。
それでこそ、動きに付いていける、
文字通り、
「息を合わす」訳ですね。

ところが始めのうちは、
主遣いがどこで、
息をしたのかが、掴めない。
ずっと息を詰めているうちに、吐く事も、
吸う事も出来ず、肩で息する羽目に。

私にも、覚えがあります。
まだ、清十郎門下の時、巡業か何かで、
簑助師匠の、朝顔の足を遣いました。
師匠の遣いに合わせようと
息を探るのですが、いつ吸って、
いつ吐いたのか、全く分かりません。
そこへあの、滑らかな動き。
美しい形で、決まっている所で、
足遣いだけが、大息つく訳にも行かず、
頭巾の中で、目を白黒。
死にそうな思いを致しました。

息を盗んで、呼吸をする。
そこに、
簑助師匠の女形の、
秘密が隠されているのです。
逆にそこが掴めれば、師匠の遣いに
一歩でも近付ける、
という訳です。

まだまだ雪は降る
コーナーでは、まだまだ雪の降る日も御座います。

もう一つは、
体のバランス。
勘介君の足拍子は、音も小さく、
タイミングもずれます。
これは、重心の真下で踏んでいないから。
体をそこに持っていけないので、
体重の掛からぬ、軽い音になる。

重心がずれているので、持ち堪えられず、
人形の動きよりも、先に踏んでしまう。
ちょっとした、向き直りの動作に、
ついて来れないのも
同じ理由です。

雪が降っています
分かりにくいかもしれませんが、雪が降っています。

勿論こんな事、誰が教えてくれた、
訳でもありません。
いきなり真剣勝負の、舞台に放り込まれ、
歯を食いしばり、汗を流しながら、
体で覚えて行くのです。

そう、体で覚える。
そこが肝心です。
自分が経験の中で掴んだ、大切なポイントを、
良かれと思って教えても、
初心者には、理解出来ません。
そこへ行くまでの、長い道のりがあればこそ、
感じ取れる物なのです。

降っています
結構、降っています。

文楽に、
促成栽培は、通用しません。
時間の掛かる、厄介な物。
でもそれだけに、覚えた時の
喜びも、大きいのです。

勘介君の修行は、まだ始まったばかり。
文字通り、
「足を引っ張られる」毎日ですが、
真剣に取り組む姿からは、
間もなく始まる、
甲子園の選手の様な
清々しさを感じさせてくれます。
「初心忘るべからず」という言葉を、
思い出させてくれます。

この春から、彼にも後輩が出来ます。
これからは
「勘介兄さん」と呼ばれる立場に。
下の者に、負けない為にも、
只今苦戦奮闘中の、勘介君。
間もなく正式に技芸員となる、
大東君、
田中君共々、
これからの、長い道のりを、
お見守り戴きますよう、
皆様、宜しくお願い申し上げます。

豊松清十郎

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[2011/03/20 14:30] | あせらず清十郎 | トラックバック(0) | page top
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