今回は、こんな御質問を戴きました。(Q&A・その2)
文楽教室、
そして若手会も終わり、
しばらくお休みが続きます。
折角なので、梅雨の晴れ間に嫁さんと、
京都を楽しんできました。

二人とも関東の人間なので、
京都と聞いただけで、テンションが上がります。
毎日でも、行けない事は無い、距離にいるのに、
近くにいると、
却ってなかなか行かない物。
何がお目当て、という事は無かったのですが、
歩いているだけで、癒される街並み。
素敵なお店も、いくつか発見して、
大収穫の、ぶらり旅になりました。

さて、このブログも、立ち上げからもう五ヶ月。
たくさんの方にお読みいただき、
心から、篤く御礼申し上げます。

四月の終わりに、少しまとめてお答えした、
皆さまからのお声。
今回は、こんな御質問を戴きました。

「こんにちは、清十郎さん。
松右衛門内の段、嵐のような展開に、ドキドキいたしました。
設計図のお話ですが、
もし、語られる大夫さんと、設計図が違ったら、
どうなるのでしょうか。
また、公演の最初と最後で、自分の遣う役の、
性根が変わる事は、あるのでしょうか」

有難う御座います。
素晴らしい御質問です。
早速お答えします。

先ず、人形遣いにとって、
浄瑠璃は絶対ですので、
基本的に、稽古までに、どんな思い、設計図を持っていたとしても、
それが語りに合わなければ、
あっさり(か、しぶしぶ)変えます。

簑助師匠でさえ、その時々の語りによって、
様々に人形の振りを変えられます。
たとえ、若い大夫さんが語っても、です。

もっとも、普通は細かく大夫さんに、
「ここのこのセリフは、どんな思いで語ったはりますか?
ここの、このお筆は、悲しみでしょうか、怒りでしょうか?」
などと伺う事はありません。
ですから、
自分の設計図と語りが
「明らかに違う!」
という事の無い限りは、取り敢えず、
自分の解釈で遣っています。

二つ目の御質問。
あります。
何だか自分が、すごく適当に舞台に出ているようで、
お恥ずかしいのですが、
よく(!)あります。

これは先述のように、
浄瑠璃を聞いているうちに、
違和感が出てきて、変えることもありますし、
公演中に、何か新たに勉強する、
という事もあります。

「酒屋」の端場の、三勝を遣っている時でした。
ここの三勝は、
愛しいわが子、お通と別れねばならない、
その悲しみを、表現する事しか、考えていませんでした。
しかし公演途中で、
その時、端場を語られた、英兄さんが、
お客様に話された言葉が、耳に飛び込んできました。

「ここの三勝、まず酒屋に来ると、
“ああ、ここが、半七さんが育った家”
おばあさんに会うと、
“ああ、この人が半七さんを育ててくれた、お母さま。
私は、絶対に御挨拶できないけれど、
お通を宜しくお頼申します”
と、そんな気持ちで語ってますねん。」

目からうろこでした。
それを聞いてからは、同じく辺り見回すのでも、
思いが全く変わりました。

三勝にとっては、この酒屋に足を踏み入れるのは、
これが、最初で最後。
永の別れとなる、お通は勿論の事、
その他、全ての物が、半七さんにつながる。
目に焼き付けておかなくては。
ただ、身を潜めているだけではない。
「もしかしたら、三勝はこの時、
とても幸せだったのかも」
などと、新たな思いも生まれて来ます。

この思いを、どう表現するか。
その日から、楽日までの、楽しかった事。
まあ、私の演技力では、特別に何の違いも、
感じては戴けなかったかも、知れませんが。
そんな風で、設計図、良く書き換えております。

という訳で、
Q&Aコーナー(?)
でした。

四月にも書きましたが、管理人のtsubameさんを通じて、
皆さまの声は、全て私のもとに届いております。
御意見、御質問、お叱りなど、
どんどん
お送りください。
本文左側の、メールフォームという所に、
お名前とアドレスをお書き頂くと、届くそうです。
また、このブログの中で、お答えして参ります。
どうぞ、お気軽に。

豊松清十郎

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[2010/06/28 19:40] | なまけず一所懸命 | トラックバック(0) | page top
秋巡業が、「仮」ではなくなりました。
秋巡業の開催地を、さる4月20日に、
「仮」という形で、お知らせしましたが、
もう全て確定となりましたので、
仮の文字は
取らせて戴きます。

4月のブログを、御覧になっていない方の為にも、
今一度、
公演場所等を、掲載いたします。

9月26日(日)河内長野市立文化会館ラブリーホール
0721-53-1111
9月30日(木)金沢市石川県立音楽堂
076-232-8632
10月2日(土)相模原市民会館
042-742-9999
10月3日(日)府中の森芸術劇場
042-333-9999
10月5日(火)倉敷市芸文館ホール
086-434-0010
10月7日(木)名古屋市芸術総合センター
052-265-2015
10月8日(金)千葉市文化センター
043-247-8430
10月9日(土)岡崎市せきれいホール
0564-25-0511
10月10日(日)静岡市グランシップ
054-289-9000
10月11日(月,祝)神奈川県立青少年センター
045-662-8866
10月16日(土)仙台市電力ホール
022-227-2715
10月17日(日)山形県庄内町文化創造館響ホール
0234-45-1433

以上12公演です。

私は昼の部、
「釣女」で、
太郎冠者を遣います。
初役で、三枚目。
何とも言えないおかしみ、
などという、味はとても出せませんが、
足や左は、遣った事のある役。

チャリがお得意だった、あの師匠、この先輩の、
素晴らしい舞台を、頭に浮かべて、
チャレンジしたいと思います。
この所、少しずつ毛色の違った、
役を戴くので、楽しみです。

さて、笑ってもらえるかな?
やっぱり心配。
いやいや、その辺りは、
語りの英兄さん、
醜女の勘十郎兄さんに、
お任せすれば、大丈夫。
余計なことは考えず、
自分の可能性に、
挑戦いたします!

夜の部では、
簑助師匠が、徳兵衛を持たれるのが、
話題の的。
何と初役です。
やってみたい、とはお聞きしていましたが・・・
玉男師匠との、名コンビ。
勘十郎、玉女との新コンビ。
たくさんのお初を遣われた中で、
「簑助の徳兵衛」という物が、
もうすでに師匠の中に、
出来上がっているに違いありません。

私たちも、拝見するのが楽しみ。
お初は勘十郎兄さんで、
先日の二月公演と、
裏返しの配役。
御覧になった方は勿論、
そうでない方も、
これはもう、見逃せません。

他の演目、配役については、
10月地方公演の配役が出ました。】の所を、
クリックして、御覧下さい。

また、チケットの料金等、更に詳しい情報を、
いつも、このブログを取り上げて下さる、
八十八&一二三の文楽れんらくちょう」さんが、
御紹介(平成22年秋期地方公演スケジュール)下さっております。
是非そちらの方でも、ご確認ください。

一部の会館では、
もうすでにチケットの発売も、
始まっている様子。
皆様の、お近くにも参ります。
お席の確保は、どうぞお早めに。
各地の舞台で、皆様にお目に掛かるのを、
楽しみに致しております。

豊松清十郎

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[2010/06/25 12:33] | あきらめず文楽一途 | トラックバック(0) | page top
人形遣いは、何を、一番大切に考えるでしょう。(自前のかしら・その2)
自前のかしらを持つ時に、人形遣いは、
何を、一番大切に考えるでしょう。
顔の感じ、ですか?
確かに、例えば同じ娘のかしらでも、
簑助師匠なら、ふっくらした、愛嬌のある物、
文雀師匠は、うりざね顔で、品のある顔立ち、
と、それぞれ僅かながら、違いがあります。
しかし、一番肝心なのは、遣い心地、
いわゆる、かしらの調子、と呼ぶ物なのです。

ここで大切なのは、
かしらを持つ胴串(どぐし)
と呼ぶ棒の、長さ、太さ、
そして、うなずきの糸を結び付ける、
チョイと呼ばれる竹の栓の、高低です。

写真の二つのかしらでは、
胴串の長さの差は、
然程でもありませんが、
簑助師匠のかしらでしたら、
これよりずっと、短くなります。
胴串の太さも、共用の物はもっともっと、
太い物もあります。

チョイの高さ
↑チョイの高さ。違いは1センチ程。でも、この差は大きい!

チョイの高さの違いは、お分かり戴けるでしょう。
高い方が文雀師匠、
低い方が共用の物です。
しかしこれも、
簑助師匠の物は、更に、更に低いのです。
今、文楽の人形遣いの中で、
一番高いのが、文雀師匠、
一番低いのが、簑助師匠でしょう。
そうそう、
玉男師匠のチョイは、更に高かったですが・・・
それは兎も角。

簑助師匠、文雀師匠、お二人とも、
亡くなった大名人、大江巳之助さんに、
自前のかしらを頼まれた時は、
何より、自分の手に、しっくりくる調子で、
と頼まれた筈。

皆さまにも、良くお分かりの、
お二人の師匠の、個性の違いには、
こんな秘密も、隠されているのです。
お仕着せの、万人向けのかしらでは、
自分が、本当に表現したい遣いを、
形に出来ない。
だからこそ、
自前のかしらは、
人形遣いの、憧れなのです。

並べてみると
↑こうして、並べてみると、どうですか?

因みに、
文雀師匠のかしらの、チョイの高さは、
文五郎師匠の高さ、そのままとか。
「ひとつも変えていない」
サブ(清三郎君)ちゃんに、そうおっしゃったそうです。
師匠の調子を、肌で感じ取り、大切に守りながら、
御自分の遣いを、作り上げて来られたのです。

そう言えば、
先代清十郎師匠が亡くなってから、
文昇兄さん、そして文雀師匠とお世話になる、
清三郎君のチョイが段々高くなり、
簑助師匠に就いた私のチョイが、
少しずつ低くなっているのも、
面白い所。
別に二人とも、師匠方から言われた、
という訳でもないのに。
こんな形でも、伝統は受け継がれていく、
という事なのでしょうね。

豊松清十郎

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[2010/06/24 16:01] | なまけず一所懸命 | トラックバック(0) | page top
お筆さんのかしらが、違っていたのにお気づきでしょうか?(自前のかしら・その1)
今月の文楽教室、後半を御覧になったお客様、
午前の部と午後の部で、
お筆さんのかしらが、違っていたのにお気づきでしょうか?

「うん、午前、午後、続けて見たけど、
気のせいか、何となく違って見えた」
というお客様、素晴らしい!
気のせいではありません。
違うかしらが、登場していたのです。

かしらは江戸の昔から、興行主の持ち物。
現在で言うと、本公演の主催者である、
文楽劇場が、所蔵、管理し、
我々人形遣いは、それをお借りして、
舞台に立っています。
しかし少ないながら、その内いくつかは、個人持ち、
いわゆる自前のかしらなのです。

現在舞台で使う、自前のかしらをお持ちなのは、
簑助師匠、文雀師匠、そして、
和生さん、勘十郎さん、玉女さんといった所。
(まだ他にいらしたら、ごめんなさい)
今月の「ひらかな」では、
午前の部、清三郎君が遣った方が、
文雀師匠の自前、
そして午後の部、私が遣った分は、
文楽劇場所蔵の物でした。

劇場所蔵のかしら1

劇場所蔵のかしら2
↑劇場所蔵のかしらです

自前のかしら1

自前のかしら2
↑こちらが自前ですが、違いは微妙?

さて、それでは何故自前のかしらが、欲しいのか。
「そんなもん、他人も遣う物ではなしに、
自分だけのかしらが、いいに決まってるやないか」
とおっしゃるお客様、ごもっとも。
しかし、その問いに対する答えの中に、
かしらの個性だけに留まらない、
大切な物が、秘められているのです。

豊松清十郎

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[2010/06/21 16:09] | なまけず一所懸命 | トラックバック(0) | page top
設計図を持てるのは、とっても有難い事です。
6月鑑賞教室も、終盤を迎えました。
近畿地方は、梅雨入り。
外は降ったり止んだりで、梅雨寒の日もありますが、
小屋の中は、初日から変わらず、
熱く燃えた舞台が、続いております。

実は、今回戴いた、
松右衛門内のお筆、
どういう感じで遣おうか、
というイメージが、
舞台稽古を迎えても、固まっていませんでした。

旅支度のお筆さん
↑旅支度の、お筆さんです。

辛い知らせを、権四郎親子に伝える役目の、お筆。
申し訳なさに、しおしおと、うな垂れ、
品の良さ、嫋やかさを大切に。
前半の舞台を見ながら、
そんな所かな、
と、思ってはみたのですが、
どうも、しっくり来ない。

自分の中のお筆は、
剣も立ち、しっかり者で,
機転も利く、行動の人、というイメージ。
ただ淑やかに、反省の人、ではピンと来ません。
これは、自分の中に、前段の「笹引き」のお筆が、
強く、強く刻みこまれているからだ、
と思います。

大切な父を、そして奥方を、失って、
悲しみの極致に立たされても、
泣き崩れては、いられない。
若君を取り戻す為、お主の亡骸と共に、
刀一つで、敵の囲みを切り抜けて行く、お筆。
あのお筆と、どう折り合いをつけるか。
分らないまま、稽古に臨むと、
人形を持っていて、ふっと浮かびました。
「お筆は本当の所、権四郎親子の、
辛さを分かって、詫びているのか?」
と。

お筆にとっては、
若君を取り返すのが、何よりも大切。
もし抗えば、二人を切り捨ててでも、使命を果たす覚悟。
何と言っても独り身で、子の、孫の可愛さも、
実感としては、分からないのでは。

考えてみれば、子の取り違えも、鎚松の最期も、
お筆だけの責任、とは言えないし。
と、一つ思いついたら、次々に連想の輪が。
「本当に申し訳ない!」
と思っている人間が、
仕方話で長々と、取り違えの様子を物語るのも、
半分は言い訳と思えば、納得がいきます。

それなら、お筆らしい、
強い首遣いも出来ますし、
権四郎が嘆くおよしを諌めると、
待ってましたとばかり、それに乗っていくのも、
合点がいきます。

悩んでいたのが、嘘のように、
役への取り組み方が、見えて来ました。
勿論、これを形にするのは、また別物。
そこからが、大切な稽古になります。
いくら思っていても、それがお客様に、
伝わらなくては、ねぇ。
でも、設計図を持って、取り組めるのは、
とっても、有難い事です。
こんな風に、
役作りが出来て行く時もある、
という、お話でした。

豊松清十郎

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[2010/06/18 13:52] | なまけず一所懸命 | トラックバック(0) | page top
けして、御損はさせません!「文楽若手会」
先日文楽デーの事を、お知らせしましたが、
お陰さまで、今年は大盛況。
改めて、御礼申し上げます。

この不況で、税収不足の中、
大阪の文化、という位置付けで、
文楽への変わらぬ支援を、
約束して下さる平松市長も、
今年の賑わいに、安堵された事と思います。

人形体験1

人形体験2
↑舞台の上では人形が持てたりします。

終演後のイベントも、大変な盛り上がり。
こんな大繁盛に慣れていない(!?)、文楽協会の職員や、
お手伝い頂いた、文楽応援団のボランティアの皆さんも、
大童の一日でした。
来年もまた、大阪市の支援の下、
文楽デーが開催される事と、信じています。
今回で、この催しを知って戴いた、お客様。
来年も、より以上の賑わいとなりますよう、
宜しくお願い申しあげます。

大夫体験
↑大夫体験では、こんな可愛い女の子も参加。

希大夫君です
↑御案内は、希大夫君です。

三味線体験
↑三味線も、持って戴きました。

さて、今月、19日(土)、20日(日)の週末、
「文楽若手会」の公演がございます。
今年の演目は、4月に上演しました、
「妹背山婦女庭訓」の、半通し。
お三輪にまつわる段を、上演いたします。

文楽若手会のチケット販売
↑文楽デーで、「文楽若手会」のチケットも販売。

咲寿君
↑「文楽若手会」のチラシを配るのは、文楽のジャニーズ系、咲寿君です。

舞台の熱さでは、今回の鑑賞教室以上。
若い人を応援してやろう、という、
有難いお客様は、勿論の事、
4月の妹背山を、見逃したお客様も、
是非、ご来場賜りますように。
入場料は、2000円。
けして、御損はさせません!(みんな、頑張ってね)

豊松清十郎

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[2010/06/16 08:04] | あきらめず文楽一途 | トラックバック(0) | page top
ツケ一つで、舞台のスケールが左右されます。(ツケ打ちのお話・その2)
お客様の耳に心地よい、良い音を出す為には、
やはりたくさん打ってみて、
体で覚えるしかありません。
ツケ柝と、ツケ板の当たる、微妙な角度の違いによって、
音が全く変わってきます。

正解ならば、舞台の床下にまで通る
心地よい振動が、手元に伝わりますが、
失敗すれば、ガツンと跳ね返され、
痺れた手の痛みに、涙ぐむ、という事になります。
それが怖くて、ツケ板を見つめて打ちたい、
と思っても、それは許されません。
あくまで眼は、人形を睨んでいなくては。
人形の動きと、浄瑠璃の息、間合い、
両方を計って、打つ事が肝要です。

ツケ打ちの姿勢
↑こんな格好で打ってます

たとえば、今月の松右衛門ですと、
権四朗親子に、正体を明かす場面、
「権四朗頭が高い。天地に轟く鳴る雷のごとく
御姿は見ずとも、定めて音にも聞きつらん」
という科白の所。
「さだめておとにもぉぉぉー」で、
三味線弾きの、鋭い掛け声もろとも、
人形がグッと首をすくめると、
「スコーン」。
「ききぃーぃいつらぁぁん」で、
人形が大きくおさまったのに合わせて、
「カーラー」
と精一杯、間取りを大きく打ちます。

続いて、その後の文句、
「樋口の次郎兼光よ」では、
浄瑠璃いっぱいに、樋口の人形が、
『かんぬき』という、型を見せます。
「ひぐちのじろぉ」で、上手に振り込むと、
「ガッチャン」そこからググーッと、正面に戻り、
「かねぇっ」で、右膝を上げ、力の籠った所で、
「スコーン」
「みぃつぅよぉ」で、一足に直り、
大きく決まると、同じく大きく、
「カーラー」。

この大きくというのは、
音の大小ではなく、
間取りを大きく、という事ですので、
良く振動した、良い音を出さないと、
音と音とが、つながりません。

このツケ一つで、舞台その物の、
スケールが左右されます。
「この舞台、ワシが大きくしたってんねん」
と言う位の、思い込みが無くては。
もう気分は、すっかり松右衛門。
ツケ柝を持ちながら、自分が人形を遣っている、
そう思えるのが、ツケ打ちの楽しみです。

ツケ打ちモデルの玉佳さん
↑モデルをお願いした玉佳君。ご苦労様でした。

いかんいかん。つい熱くなり過ぎました。
皆さん、ついて来れましたか?
教室の舞台を御覧いただいて、
「ふーん、何となく分かる」と、
感じて下さったら、本望です。

長々と、口上にまつわる仕事に付いて、
お話して参りました。
普段、気にも留めて戴けない、職分。
裏方の仕事ですから、当然ですが、
お芝居の感激を、更に濃く、深く、
味わって戴けるようにと、皆々励んでいます。
目立たないけれど、将来必ず、自分の血となり、
肉となる、口上、幕柝、ツケ打ち。
大切に、伝えて行きたいと思います。

豊松清十郎

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[2010/06/15 14:54] | あきらめず文楽一途 | トラックバック(0) | page top
ツケ打ちは、即、自分の役に立ちます。(ツケ打ちのお話・その1)
文楽教室も半ばを過ぎ、
いよいよ、
私の出番もやって参りました。
長い公演では、二月以来の女方。
それでも、やはりしっくり来るのは、
長年の、積み重ねでしょうか。
公演レポートは、また後程として。

さて、ずっと、お伝えしてきた、
口上三兄弟の三男、
ツケ打ちのお話を。

このツケ打ちは、口上、幕柝と違って、
即、自分の役に立ちます。
人形の型、決まりのタイミングなどが、
自然に身に付いてくるのです。
習い事は何でも、この「自然に身に付く」
という事が大切。
ですから私も、ツケ打ちは自分から、
「やらせて下さい」と、
玉男師匠に、お願いに行きました。

あの当時は、まだ文楽劇場が出来る前で、
道頓堀にあった、朝日座がホームグラウンド。
音がうるさいので、屋上に上がって、
手が腫れ上がるまで、打ちこんだ日々を、
思い出します。
道頓堀を通る人達は、「何の音?」と、
不思議に思った事でしょうね。

ツケ板とツケ柝
↑ツケ板とツケ柝です

歌舞伎ですと、ツケ打ちは、
道具方(大道具)のお仕事。
たっつけ袴姿も凛凛しい、ツケ打ちさんが、
下手花道の付け際に、颯爽と登場。
鮮やかなツケの音で、、舞台を盛り上げます。

聞く所によると、役者さんによって、
お好みの方があるとか。
しかし文楽では、二尺八寸の手摺の陰に、
這いつくばるようにして、打っています。
手を振り上げると、手摺から見えてしまう為、
動きはごく控えめに。
それでいて、しっかりと、
大きく、良い音を出さねばなりません。
一度、歌舞伎のように、カッコ良く打ってみたい物です。

ツケ打ち高さ規制
↑ここまでしか振り上げられません(モデルは玉佳さんです)

もう一つ違うのは、決まりの時の、ツケの打ち方。
歌舞伎では、
「バタン、バッタリ」と、二つに分ける所を、
文楽では、
「ガチャン、スコン、カーラ」
と、三つに打ち分けます。
たとえば、歌舞伎ですと、
人物が、右足を踏み出して「バタン」
大きく首を回し、決まった所で「バァッタリ」
となる所を、
文楽では、
踏み出して「ガチャン」
首を回して「スコン」
そして、おさまった所で「カーラ」
となる訳です。

歌舞伎は、板にしっかり打ちつけて、はっきりした音、
文楽は、少し浮かせて、響きのある音を出す為、
口真似の言い方(オノマトペ?)も、
違う所が、面白いですね。
それぞれに、感じが良く出ていると、思います。
この辺り、文章で説明するのは、限界が・・・
お話した事を頭に置いて、
実際の舞台で、
見比べ、聞き比べてみて下さいませ。

ツケ打ちで楽しいのは、
「菅原伝授手習鑑」の、車曳。
梅王、松王、桜丸の三兄弟が、吉田社頭で大喧嘩。
石投げ、六法、かんぬきに立ち見得と、
型のオンパレードとも言うべき、
華やかな舞台。
ツケ打ちはもう、休むヒマなく打ちっぱなし。
調子に乗ると、手が腫れ上がりますが、
正にスポーツ感覚。
終わると、皇居を一周したような(走った事はありませんが)、
爽やかさと満足感で、いっぱいです。

私も、昨年の博多座で、担当しました。
久々のツケ打ちでしたが、
血沸き肉躍る(?)、
という感じで、
ニコニコしながら、勤めました。

豊松清十郎

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[2010/06/11 09:10] | あきらめず文楽一途 | トラックバック(0) | page top
郡上大和公演、今年で17回目を迎えます。
以前にお知らせした、
郡上大和の公演が、近付いてきました。
大和へ初めて伺ったのは・・・っと、記録を見ると、
えーっ、平成5年!
そんなに昔の事だったとは、
今回調べるまで、気が付きませんでした。
毎年欠かさず、呼んで戴いてますから、
今年で・・・
そう、17回目になる訳です。

長いお付き合いの中で、
この公演も姿を変えながら、進化してきました。
舞台でも、そして、公演を支えて下さる、大和の皆さんとも、
たくさんの、忘れられない、思い出が出来ました。
是非お話したい事ばかり。
でも、とっても長くなって、
書き終えるまでに、肝心の舞台が、
終わって仕舞っては困ります。
先ずは大切な、公演のお知らせを。

日時:7月3日(土) 18時
場所:大和町生涯学習センター(岐阜県郡上市大和町剣)
演目:
「仮名手本忠臣蔵」裏門の段
「文楽よもやま話」(今年は人形解説です)
「恋女房染分手綱」道中双六の段・重の井子別れの段
入場料:
前売り一般 3000円(当日3500円)
高校生 500円
中学生以下のお子様は無料です。

チケットの販売、会場へのアクセス、宿泊場所の案内等、何でも

古今伝授の里・フイールドミュージアム
TEL.0575―88―3244
FAX 0575―88―4692

または、
大和観光協会
TEL.0575―88―2211
FAX 0575―88―4351
まで。

どちらもHPが御座いますので、そちらも御覧ください。

え? 配役ですか?
はるか昔、2月の21日に、
アップさせて戴いたのですが。
そうですね、ではここでもう一度。

裏門の段
芳穂大夫、龍爾。
勘平・幸助
おかる・紋臣
伴内・玉勢

文楽よもやま話 (今回は人形解説です)
勘市

道中双六の段
咲甫大夫、芳穂大夫、喜一朗 ツレ 龍爾。

重の井子別れの段
千歳太夫、宗助。
重の井・清十郎
三吉・紋秀
弥三左衛門・勘市

若菜・文哉
踊り子・玉誉、紋吉。
調姫・勘次郎

人形部・ 勘緑、玉佳、玉彦、勘介。

なかなかフレッシュな、配役でしょう。
大和の皆さんからは、
「大いに勉強の場にして、熱い舞台を見せて下さい」
と、有難いお言葉を頂戴していますので、
私以下、
本公演では持てない役にも、チャレンジしています。
因みに、人形部とは、配役表に使う言葉で、
主遣いの無い、手伝いだけの人の事です。
人形遣いの部活動、ではありませんので、悪しからず。

私にとっては、深い深いご縁のある、郡上大和。
もっと早くに、ご紹介したい所。
とは言え、大阪、東京からは、
ずいぶん距離のあるこの地。
一部の方にしか、見て戴けない公演に、
長々と触れるのも、と
少々ためらいがありました。
しかし、名古屋からなら、車で一時間ばかり。
それに、中には
「行けないからこそ、
このブログで伝えて欲しい」
という方もおられる筈、と思い直し、
お伝えする事に、致しました。

郡上は、そして大和は、とっても素晴らしい所。
人も、自然も、食べ物も。
さて、どう素晴らしいのか。
これまでの公演の思い出。
今回の舞台への思い。
お話したいことは山ほど。
「あぁ、いつか大和に行ってみたい」
と思って戴ける事を願って、
大阪の舞台と共に、
焦らずぼちぼちと、
お伝えして参ります。

豊松清十郎

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[2010/06/09 18:41] | おしらせ | トラックバック(1) | page top
幕柝には、自分の世界が広がって行く喜びがあります。
いつの間にか、もう六月。
文楽教室も、開幕しました。
今月の舞台は、四つの配役。
「全ての組み合わせを見てみたい」という、
有難いお客様も多いのでは?
一つの役を、四人が語り、弾き、遣う。
当然そこに、競い合いが生まれます。
舞台の熱さ、だけならば、
本公演にも、負けません。

学生さんの団体が、中心ですので、
良いお席の取れない日も、あるかとは思いますが、
パンフ付きで、3600円、お得です!
各々が工夫した、解説もございますので、
「文楽は初めて」というお友達を、
お連れ戴く時にも、ピッタリ!
どうぞ、皆様お誘い合わせの上、
ご観劇賜りますよう、お願い申しあげます。
(すっかり、文楽宣伝マンの気分です)

さて、相生座で口上に触れましたので、
物はついで(?)、
今日は幕柝のお話を。

幕柝
↑幕柝です。白樫だそうです。

幕柝は、舞台進行を司る、とても重要な役どころ。
何しろ、幕の開け閉めから、舞台転換まで、
柝の音一つで、全て進んでいくのですから。

歌舞伎では「狂言方」という、専門職がおられますが、
文楽では、我々人形遣いの役割。
「小割り」に名前が載ると、その時が始まりです。
例によって、待っていても、何も教えては貰えず、
先輩方の様子を見て、あちらに聞き、
こちらに尋ねして、覚えて行きます。
幕を開けるにも、一体どこに柝を入れたら良いのか。
その為には、数ある鳴物の曲を、
ある程度知らなければ。

小割帳
↑これが小割帳です。主遣い、左遣い、足遣い等の人形部の役割が書いてあります。

小割帳のなかみ
↑小割帳を開いたところです。中央が主遣い、右肩が左遣い、左下が足遣いです。

幕閉めは、義太夫節の旋律。
三重なのか、段切れなのか。
いつも耳にしていた筈なのに、普段意識しない為、
その場になると、分かりません。
人形の決まりと、太夫の語りが、上手く調和するように、
折り合いも付けねばならず、
定式幕を引きやすいように、テンポ良く刻まないと。
全てを把握して、落ち着いてやれるまで、
結構時間が掛かります。

そして、一番気を使うのが、柝の音。
狂言方さんなどは、胸がすくような良い音を、
事も無げに出されますが、
ほんの僅か、勘所を外すと、
「チョーン」の筈が、忽ち
「ガチーン」に。
その怖さで、緊張すると、益々おかしくなります。

大道具の転換のきっかけ(今で言うキューですね)は、
たった一発、一丁柝で知らせます。
これが新人には、最大の恐怖。
刻みのように、たくさん打てれば、数打ちゃ当たるとばかり、
少しは気楽に、構えられます。

下手の御簾内
↑下手の御簾<みす>内の、望月さんの部屋を、撮らせて戴きました。

しかし、一丁柝にチャンスは一つ。
舞台では、たくさんの大道具さんが、自分の打つ、
この柝の合図を、固唾を飲んで待っています。
「絶対に、失敗は許されない。」
「うわーっ、あの人も、この人もこっちを見つめてる」
という大プレッシャーの中、皆さんの目の前で、
柝を持つ右手、左手が、
見事に「スカッ」と行き別れ、なんていう、
悲しい事もありました。

御簾内からみた舞台
↑御簾内は、二階にある為、舞台はこんな風に見えます。

でも次第に慣れてきて、
舞台全体も見渡せるようになると、
自分の柝で、芝居が動くという快感を、
味わう余裕が出てきます。
人形だけ遣っていたら、きっと知らないで済ませていた、
鳴物、舞台進行、大道具など。
ほんの少しかじっただけでも、自分の世界が広がって行く喜び。
今振り返って、機会を与えて貰った事に、
改めて、感謝しています。

今月も何人か、
チャンス(ですよね)を、貰った人がいるような。
耳馴染みのない、口上の声が聞こえたら、
緊張しまくりの、フレッシュマン。
心の中で声援を、どうぞお願い、申し上げます。

豊松清十郎

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[2010/06/07 21:12] | あきらめず文楽一途 | トラックバック(0) | page top
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